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2016年6月20日 (月)

「つまをめとらば」「半席」 を読んで

 平成27年(2015)下半期の直木賞は青山文平の「つまをめとらば」(平成27年7月発売)が受賞した。

Img_2488 青山文平の本はその少し前に「鬼はもとより」(平成26年9月発売)を読んで、すっと物語の中に入り込める文章のうまさと人物の内面描写の鮮やかさなど藤沢周平に似た趣きがあり、すっかりファンになってしまったので、3月頃早速図書館で予約をした。

 「鬼はもとより」は江戸時代藩札発行により藩の財政立て直しの指南をする男と、極貧の小藩でその指南を受け、自ら鬼にならんとする覚悟で不屈の意志により財政立て直しを成功させるが最後は悲劇で幕を閉じる男の話である。
 後から知ったのだがこの本は平成26年下半期に直木賞候補になり好評価だったそうである。

Img_2741 5月下旬に「つまをめとらば」を借りる順番が来て早速読み始めた。この本は6つの短編集でこの6つの短編が評価されたのである。前回の直木賞候補になった「鬼はもとより」の様な長編であれば幾つかの緩い表現が見付け易いが短編ではそこまで行かないうちに終わってしまうので欠点が見付けにくいのではないかと勘ぐってしまう。

 しかしこの6編はそれぞれの話が違う分野を描いたもので長編にしても話に破綻が無く進むのではないかと思わせるものがある。

 最初の「ひともうらやむ」は本家の優れた跡取りを支える分家の男の話だが、本家の跡取りは嫁になった才色兼備と思われた妻女との間がうまく行かず、別れ話のもつれから妻女を殺して切腹してしまう。その介錯をした男は侍を辞め釣り具師として生きる事になった。その妻女は、以前は平々凡々とした女だと思われたが、釣り具師になった男を助けるうちに才色兼備の女性として人に羨まれるような女に変って行く話。

 4番目の「ひと夏」は問題のあるという飛び地を納めるために赴任した主人公がその地の農民たちに無視され続けるが、ある時人を殺した武士を捕えたことで飛び地一の娘と一夜を共にする。しかしその時だけ主人公に挨拶などした農民たちは暫らくすると前の様に無視するようになり、娘の父親から侍など止めて娘の婿になって商売をやった方が今後の生きる道だといわれ、迷う男の話。

 最後の「つまをめとらば」は3度目の結婚もうまく行かず離別して隠居暮らしの56才を過ぎた主人公が、久し振りで幼馴染で独身だが、これも隠居暮らしのの友人に出会い、女と所帯を持ちたいというので所有している貸家を貸してやったが、女はなかなか来ず、暫らく男二人のそれぞれの平穏な生活が続いた。

 ある時、昔主人公の家で働いていた女中が、同じく使用人だった男と心中事件を起こして男は死に、女はお払い箱にした事があり、その女が農家の小母ちゃんになって明るく味噌を売りに来て二人に味噌を売りつけて帰った。その女と友人は以前心中を図ったと噂をされたことがあり、友人は「女にはどうやってもかなわん」と言って男同士の気楽で居心地の良い生活を捨てて女の許に去って行くのである。

 そのような話が詰まっているのだが、太平の世になり下級武士の男たちは何をすべきか生き方を模索してさまよっているが、そんな男たちに係わる女たちのしたたかな生き方が全編を通して印象付けられる。

 また語り口のうまさは前作同様だったが、この短編集ではどの編もほんのりとした温かさがあり、さわやかな後味が残った。


Img_2753 この後、直木賞受賞の次に書かれ平成28年5月に発売された「半席」という本を読んだ。「半席」とは御家人が旗本になるには御目見(お目見え)以上の役目に着かなくてはいけないが一つだけでは当人は旗本になれても代々旗本になるには二つ以上の役目に着かなくてはならない。一つだけでは一代御目見の半席ということなのだそうである。

 主人公の片岡直人は徒目付(かちめつけ)という役目についているがそこから勘定所への御役替を狙っていた。二つの役目を無事に果せれば当人のみならずその子も旗本と認められる永々御目見以上(えいえいおめみえいじょう)の家となるので勘定所の目に付くようにと仕事に励んでいた。

 そのため上長である徒目付(かちめつけ)組頭の内藤雅之から依頼される本来の仕事から外れた頼まれ御用を断るのだが、だんだんと書類を扱うことが多い本来の仕事と違って人臭い頼まれ御用の魅力に取りつかれていく。

 そのような頼まれ御用は年も分別もある老年の侍が起した刃傷事件の動機を探ることが多くあり、6編の連作で構成されているが、その解決策を探って行くうちに武士とは自分の意思で死ぬことができる者であることを思い起こされたり、徒目付の仕事はすべての御用を監察する目付の耳目となって働くので、思わぬ恨みを買って襲撃されることを覚悟することなど、旗本になるべく二つ目の役目を必死に追い求めていた時に忘れていた事を身にしみて感じられるようになり、組頭の内藤雅之の茫洋とした中に仕事への真摯な姿勢を示す人柄と相まって今の仕事に魅かれて行くのである。

 直木賞を受賞した後のひと息ついたと思われる軽やかな筆致と読み易い文体だが、内容はなぜそのようなことをしたのかという動機というか人の心に分け入る探索という地味な難しい内容だが、「つまをめとらば」の女の情念の深刻さに対して老年の男の心に秘めた思いがあるきっかけでほとばしるという内容に共感できるのは自分が老年の男であるからだろうか。

 文中沢田源内という魅力的な人物が登場する。組頭の内藤雅之、主人公の片岡直人そして沢田源内が絡んだ頼まれ御用の連作シリーズが出て来そうな予感がする。いや出て来て貰いたいと思う。

(この項おわり)

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